今まで立て板に水とばかりに言葉を途切れさせなかったルルが、ふと口を噤んだ。同時に立ち止まってしまった彼女に合わせて、ラギも足を止める。
 「どうかしたか?」
 帰り道だから時間に追われることなどないが、なんとなく気になって声をかける。
 「あ、ごめんなさい。なんでもないの!」
 だから帰ろうと袖を引いて、ルルは再び足を進める。半ば釣られるように同じく足を動かし、隣を歩く。ちらりと視線を動かせば、先程より幾分機嫌がよくなった横顔があって、ラギはもう一度同じ問いかけをした。
 「どうかしたか?」
 「え?」
 「なんもねーのに、んなニヤケ面してんのはどうかと思うぞ」
 言葉と同時にニヤケた頬を引っ張ってやる。
 「そ、そんなにおかしな顔してたかな…っ!」
 ルルは引っ張られた頬を押さえるようにして手を当てる。むむっとよった眉に、ラギはくつくつと喉を鳴らして笑った。相変わらずからかい甲斐のあるヤツだ、とは心の中でだけつぶやいておく。
 で、と促すと、少し不服そうに飴色の瞳が見返してくる。それでもルルはひとつ息をついて口を開いた。

 「お花がね、咲いてたの」
 「…花?」
 「うん。少し前から満開になってたお花さんたちの中にね、いっこだけ、中々開かない蕾があって」

 それがさっき見た時に、咲いてたから。

 総てが咲いて真実満開になった花壇を思い出したのか、ルルはふふっと笑う。
 「……マジで、それだけか?」
 「う…。だから言ったのに」
 ラギの呆気に取られたような言葉に、ルルは途端に苦虫を噛み潰したような顔になる。
 恥ずかしそうに視線を外す仕種に、思わずラギも視線を外した。
 「…くっ」
 「あ!ひどいっ!笑わなくたっていいでしょう?!」
 抑え切れずに漏れた笑い声に、ルルは耳聡く反応する。しかし彼女の言葉にも応えず、ラギは笑いを抑えようとしながら顔を背けたまま。というか、全く抑え切れていない笑い声がルルの耳元に届いた。
 「〜〜〜っ、もうっ!」
 「悪い、悪かったって。それくらいで、ンな幸せそうな顔になるなんて安上がりなヤツだって感心しただけだって」
 「けなしてるだけじゃない!」
 ぷくっと頬を膨らませたルルは、ラギなんか知らない!と声高に叫んでからさっさと足を早めて距離を取ってしまう。
 先を行く小さな背中にラギはつと目を細めた。


 そんなお前だからこそ、守ると決めた。



守りたいもの

その笑顔が、
いつまでも続くようにと