消える、夢を見た
不意に目覚めて白い天井を見て、ふと息をつく。
見慣れた保健室の天井。
常駐していなければならないはずの保険医はいつもの如く姿を消していて、だから難無くベッドの使用権を手に入れた。
サボりがばれたら煩い幼なじみがまだ来ていないということは、まだ授業中だろうか。壁にかけられた時計を見付けて時間を確認すれば、睡眠時間は大分少なかったことが知れる。
珍し…
一度寝付けば中々起きないことが常だった。特に今回のように体調を崩し調子が戻らない、時は。
だからか。
頭を抑えて、目を閉じる。
先ほどの、残像を呼び起こす。
まるで、白い世界に溶けて行くように侵食されて行くように、笑顔の月子が、消えて行く、そんな、映像。
追いかけて手を伸ばすのに届かなくて、泡と消える。消えて、しまう。
おかしいよな
だって消えるはずはない、月子は消えない、消えるの、は。
消えるとしたら、俺だろ
「……はっ」
馬鹿馬鹿しい、と心の内で吐き出す。月子は消えない、消えるはずがない、それを何より知っている自分自身がみた、くだらないゆめ。
けれども、消えるなら。
最後に焼き付ける映像になるなら。
「……あぁ、そうか」
ラスト・ヴィジョン
(あれはお前が消える夢ではなくて俺が消えるときに見るだろう世界の最後の姿か)