別れは、嫌いだ。

なんで、望みは叶わないんだろう。望みは、願いは、小さくてささやかな、ことだろう?

「くそっ…」

羊が帰国を決めたという。
そんな話を、あっさりと口にした羊に対して、怒りに等しい感情が渦巻いた。お前も、壊すのかよ。俺の望みを。
感情が高まり、何を言えばいいかわからなくなって、屋上から飛び出した。
フランスなんて、遠い、遠いところだ。
夢を追うことが悪いことだとは思わない。むしろそれについては尊敬さえできる。
俺にだって夢は、あるし。

ただ、突然過ぎて、受け入れられない。

望んだのは、ただ当たり前に続くこと。
願ったのは、ただただ――


変化は嫌いだ。
別れは嫌いだ。
唯一形成できた、手にできていた『世界』を揺るがすものは全て嫌いだ。
その『世界』が曖昧なことを、思い知りたくない。

「……無くしたく、ないんだよ」
誰にともなく呟いた言葉は、直ぐに空気に溶けて消えた。
手にしたものが、零れていく。まるでお前に手にできる者はなにもないんだと言われているようで。


不意に浮かんだ面影に、ぎゅっと拳を作る。

「……アイツも」

いつか、この手からこぼれ落ちてしまうのだろうか。








揺らぐ世界


(永遠なんて無いことは理解しているけれど)