不意に視界を過ぎった色に、思わず、勢いよく振り返る。けれども期待したモノはやはりなくて、またか、と花は小さく息をついた。
もう何度目だろう。

数えるのも馬鹿らしいほどに、同じことを繰り返している。

顔をあげれば、先程花の視線を奪った金髪の少年が、友達らしき少年と笑いあっているのが見えた。
その姿に花は苦笑し、見知らぬ彼等に心の中で謝って、再び進路を目的地へと向ける。今日は友人たちと買い物にいく約束をしているから、しっかりとしないと。そう思って家を出たのに、結局はこんな結果で、大丈夫かなあともう一度息をつく。
待ち合わせは、街の中心部にある駅。
当然のように、人の往来は激しく、その中で金色の髪を持つ人達は珍しくない。
そのたびにその姿を追い、意識を持っていかれていたら、キリがない。
止まらないため息をつきながら、花は足を止めて目をつむる。


覚えているのは、日の光に溶け込むような金色の髪と、真っ直ぐに視線を向けられたこと、後悔しろと力強く言い放たれた言葉。

顔は曖昧で、名前なんてわからない。いつどこで出会ったのか、どんな人だったのかすらも、わからないまま。
ただ思い出そうとすると、少し胸が痛くなるような感覚を覚えた。それがどういう想いに起因するかもわからなくて。


自分の記憶のはずなのにわからないことだらけだなんて、花は苦笑してまた顔をあげる。後悔しろと言われたその言葉通りに、恐らくは後悔してるんだろう。何に対することなのかはわからなくても、その『誰か』に、私は――

ぐるぐると巡る思考に、頭を降ることで終止符を打つ。
ひとつだけ、確実なことは、恐らくは『誰か』に会うことはもう二度とないこと。
駅へと向かって再び歩きながら、その確信に、少しだけ視界が滲むような錯覚を覚えた。








刻み込まれた喪失感



100621