※死ネタ注意
















































赤い糸、って知ってますか?

それはいつかの、他愛ない話の最中に出た花の言葉だった。

普通の赤く染められた糸の話じゃないんでしょ、と確認すると、はい、と困ったような笑みが返ってきた。


だったら知らないなあ

そうですか…やっぱり知らないですよね。運命の人とは赤い糸で繋がっていて、だから必ずその糸で繋がった男女は結ばれる、って言い伝えなんですけど

へぇ、と目を細めて相槌を打つ。それは逆に言えば例え嫌いだと思う人とも結ばれるということで、例え好きな人でも赤い糸で繋がっていなければ結ばれないということでもあるのではないだろうか。孟徳は恐らく口にしないほうがいいような事を考え、何故今そんな話になったんだろうかと疑問に思った。


赤は運命の色、なんですよ

良くも悪くも、と付け足した花の顔は何か苦いものを含んだように僅かに歪んでいた。



コツ、と足音が響いて無音だった室内に波紋を生む。
「捕まったのか?」
振り向くこともなく、孟徳は足音の主に問い掛ける。躊躇うような間を置いて、ため息をつく音がした。
「丞相、それをお離しください」
「やだよ、今離したら帰って来なくなるだろう?」
「…意味が解りません」
はぁっと溜め息をついて、文若は眉根を寄せる。
いくら敵方にいた少々変わり者の娘であろうと、今は味方に転身し孟徳の寵愛を受けていることを皆が知っている以上、それなりの弔いをしてやらねばならぬというのに。
孟徳は遺体を抱え込み、血の気の絶えた血まみれの手を掴んで、微動だにしない。

ふと、その繋がれた二人の手に、赤い紐のようなものがぐるりと巻き付けられていることに気づく。
文若は眉間の皺を深くし、けれど再度溜め息をつく以上の言動はせずに、室内に一礼する。
「凶手は未だ捕まっておりませんが、背後の人物は拘束済みです」
「逃がすなよ」
「御意」
文若は再度礼を取り、一瞬迷うように口を開きかけたが、結局は何も音にせずに室を出た。

静寂を取り戻した室内で、しばらく動かずにいた孟徳はくつりと笑いを零した。
「俺達は、繋がっていなかった、ってことかな」
元々帰ると公言していたのは、花自身だ。事故で仕方なく、此処に留まっていただけ。

花が消えることは、変わらなかったのだろう。


それでも。
「せめて、戻ってよ」
赤い糸、は用意できなかったけれど。
「戻る先が、俺のいる場所じゃなくていいから」
ぽたり、と一度は止んだ雨が再び降り始める。

ぽたり、ぽたり。

冷たくなった手を両手で包んで、額を寄せる。そこから熱が移ってやがて細い指先が動き出すことを切に願った。








結びなおす赤い糸


(繋いだ赤色を辿って君の生きる運命に俺が望む運命に立ち還ってくれないか、と)



100414 / title : 月暈オラトリオ