仲間の新たなる生を願った。
いつか来るだろう己が責を果たす日を思った。
そうして意識を閉じるその寸前、浮かんだのは、自らが手をかけた彼の人だった。
――あの場所に、また…花が咲いたぞ
静かで、微かなその声を、鮮明に思い出せる。
温かな身体も冷たくなるその瞬間も、すべて鮮明にこの身に刻まれている。忘れることなど、したくなかった。
みたかった、ですね…
もう叶うことなき願いだ。
それでも、一軍を率いた将として皆の次なる生を祈り、一人の仙として世の平穏を望んだ。
その合間に己のささやかな欲を折り込んだとて、責められる謂れはないはずだ。
たとえ、一緒に見れないとしても
転生を果たした後でいいから、『金蝉子』としてではなくても構わないから、独りであろうとも構わないから。
もう一度、あの場所に咲く花を見たいと思った。
悟空の名を忘れないと、誓った。
再会などという大きなことを望むわけではない。
その名を呼べずとも、その名を持った誰かがいたことを、次の『私』が覚えていればいい。
そしてそれと同じくらいに、彼の人と出会った場所を、些細な会話から彼が気にかけてくれたあの花を、次の『私』がその瞳に映すことを、強く強く、願った。
片隅に咲く花
(なにひとつ忘れたくないと思うのは強欲で不可能な願いだと知っていても)
110509