不思議に思ったことがある。
何故、世界は何も変わらないのか。
何故、また日常が戻ってくるのか。

何故、彼女を置いて、時は進むのか。


いっそ世界など、時を止めていればいいのだと、思ったことがある。
彼女が戻ってきたときに、何の支障もないように。
彼女が戻ってきたときに、戸惑わないように。

彼女が、何事もなく笑っていられるように。


けれど。

「オレはやっぱり…薄情なのかもしれないな…」
世界は事実、時を止めた。
それは理一郎が実際にすごした時間軸ではなくて、似て非なる近似値の世界。
時を止めたといえばそれは少し違うらしいけれど、詳しい理論がわからない理一郎にとってそんなおおまかな事実だけで充分だった。
ディスプレイに映し出されたその近似値の世界とやらは、色をなくしてしまった。モノクロに染められた世界は、こちらの、壊れてしまった世界と似ている。青く澄み渡った空はなく、緑豊かな自然は消え、荒廃した建物の中に人が住む。そんな壊れた世界と。

そして、あちらの世界のオレも、……結局は何もできなかった

それを目の当たりにした。
やはり自分は無力なのだと思い知らされる。
おそらくはあちらの世界でも同じことを思ってるんだろう。"彼"がどうなっているのかは、理一郎にはわからないけれど。
「時を、止める、か…」
いつか、願ったことがある。
世界が止まればいいと。
彼女が戻ってきたときに何も困らないように。
何より、そうなれば、オレ自身が―――

「けど」

これは、違うと思う。


こんなことが、したいわけじゃない。


綺麗事と言われようが、構わない。
薄情といわれれば、自分だってそう思う。
それでも―――こんな風に、犠牲を出したかったわけじゃない。

動いて、自分の名を呼ぶ彼女を見て、嬉しいと思う。
今まで出来なかった分、傍にいたいと、いてほしいと、願う。

それでも。
これは違うと、誰かが叫ぶのだ。
それはもしかしたら、撫子自身かもしれない。


「お前は、帰るべきだよ、撫子」

こんな色のない世界は、お前に似合わない。

フレームアウト


(たとえ独りよがりだとしても此処でお前が真実幸せになるとはどうしても、思えないから)


110322

彼の話を書こうとするとどうしてもまとまらない…
放浪者はいつでも葛藤しているイメージです。正論と欲に挟まれている感じ。