つと、指を滑らせば、硬質でひやりとした感覚。
触れられるくらいに近いのに、ガラス一枚分隔てられた彼女の温度は、僅かも伝わっては来ない。
眠り続ける彼女を生かすための装置は、例えば数秒の間窓を開けたとしても支障があるわけではないけれど、鷹斗は滅多にそれを開かない。その行動制限の根源にある己の感情を思って、口の端が緩んだ。こんな感情を抱くことになったのも、彼女のお陰で。

「あと、もう少し」

計画は順調に進んでいる。
数日後には、鷹斗はもうひとりの幼い『彼女』に会いに行くことになっていた。
どくりどくりと常より幾分早い速度で心臓が脈打っている。
緊張、しているのだろう。
久しぶりの感覚だな、と思った。

「あともう少しで、また、逢えるね…」


ぴくりとも動かぬ瞼が、ふるり震えるその瞬間だけを夢見てきた。
その夢は、もう少しで、叶う。


あぁ、そういえば。
ふと思って、鷹斗は首を傾げた。
撫子の瞳の色は、どんな色だっただろうか。
あまり感情を宿さぬその瞳が、鮮やかな色をしていたことは確かなのだけれど。
「まぁ、それももう少しでわかるよね」
そういって意識して笑みを浮かべたはずなのに、なんだかうまくいっていない気がした。








記憶から消えた色


(あぁ、待ち遠しいよ。とてもとても待ち遠しい。例えば再開の合図が笑顔でないとわかりきっていても)


110118