※ ED「二人のトラ」の補完話です。
  色々ご注意ください。





























ぜぇぜぇと息を乱しながらも、黄金の瞳は一切の揺らぎもなく、強い敵意を示す光は全く弱まらなかった。

我ながらしぶといな…

くるりくるりとナイフを回しながら、寅之助は小さくため息をつく。
目の前には血まみれの子供がひとり。腹部から垂れ流される血は宛がった彼の小さな手では抑えきれてなかったし、もう一方の手は寅之助が使い物にならないようしてやった。出血が響いて立つのも辛いのだろう、膝をついて動く気配はない。
そのくせあの目ならな…まあ確かに反感買うだろ、生意気にもほどがあるっつか
衰えるどころか強さを増した眼光に目を細める。まさに、手負いの獣、という表現がぴたりと嵌まるようなザマだ。
此処にきてようやく己が喧嘩を売られやすい理由を知れたわけだが、まあ、わかったところで変わる気はない。
くるり、と弄んでいたナイフをもう一回転させ、逆手に構える。一発で仕留めるつもりだったのに僅かに逸らされてしまったから、次で決めなければ。
不意打ちでこの結果だ。
さて、どうするか。

「…、だ…てめ…」

不意に呻き声に似た言葉が届く。
「あぁ?何だよ、聞こえねぇ」
寅之助が顔をしかめて『寅之助』に問う。全く、気持ち悪い状況だな、という感想が頭を過ぎった。自分との会話、なんて。
「誰、だ…っつってんだ、よ」
掠れたその問いに、ぱちりと瞬く。けれど感情は一瞬で黒く塗り潰された。
「確かにわけわかんねぇのにやられんのは癪だよな。いいぜ、名乗ってやるよ」
にやりと口の端をあげ、一足飛びで距離を詰める。その行動を読んだだろう『寅之助』は、しかし思い通りに動かない体を不様に転がしただけに終わる。寅之助はそのザマを笑って、思い切り踏み付けた。
「っぐ、ぁ…っ」
「オキマリな台詞で悪いが、冥土の土産に持ってけよ?俺の名前は、」

ひとつ、言葉を区切り、片目を隠す前髪をかきあげる。

「西園寺、寅之助」

驚愕に見開かれる、幼い金色の目。

「テメェの10年後の姿、しっかり焼き付けて行けよ」


世界が、歪む音がする。
この音を、『彼』は聞いただろうか。








終幕を、


(そうして終わらせたのは、幼い命か、それとも)


101224

本編で触れられなかったところを敢えて自分クオリティで補完。